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筑波大学附属病院 病院教授
筑波大学附属病院 総合臨床教育センター部長
女性医師キャリア支援コーディネーター
瀬尾 恵美子
筑波大学医学専門学群卒業。筑波大学人間総合科学研究科にて博士号取得。専門は消化器内科。2004年から筑波大学附属病院総合臨床教育センターで臨床研修をはじめとする医師教育に従事。2007年より女性医師キャリア支援コーディネーターとしての活動も開始し、現在では院内だけでなく、茨城県内で勤務する女性医師、地域枠医師のキャリア相談も担当している。
医師不足が続く中、医師の働き方改革も始まり、各医療機関において医師が働きやすい環境を整備することは必須となっています。筑波大学附属病院で2007年に開始した女性医師の働きやすさや、キャリアアップ支援に主眼を置いたシステムについて総合臨床教育センター部長の瀬尾恵美子氏に伺います。
当院が女性医師のキャリアアップ支援に取り組み始めたのは、文部科学省のグッド・プラクティス(社会的ニーズに対応した質の高い医療人養成推進プログラム)に採択されたことがきっかけです。背景には、茨城県が慢性的な医師不足に悩まされていたことが挙げられます。医師を増やす中で、女性医師に選んでもらえる病院、県になりたいという狙いがありました。
当初女性医師にターゲットを絞ったのは、筑波大学医学群医学類の女子学生の比率がもともと高かったからです。私が入学した1989年当時、女子学生比率は10%台という医学部が多い中、当医学部では女子学生が30~40%を占めていました。一方で、女性医師が大学病院に残り、専門医を取得することはさまざまな困難や苦労が伴います。そこで、女性医師の働きやすさだけでなく、キャリアアップに主眼を置き、高い能力と向上心を持つ女性医師を支援するシステムを構築することにしたのです。この先進性が評価されたと思っています。
そして、私が所属する総合臨床教育センターが中心となって支援システムの構築と運営に取り組んできました。妊娠・出産・育児によりキャリアアップを断念せざるを得ない女性医師が多いことから①診療・研修コーディネート、②キャリアカウンセリング、③環境整備の3つの支援を柱に据え、それらを有機的に連動させながら女性医師のキャリアアップを支えています(図参照)。
キャリアアップ支援を受ける女性医師の大半は診療科からの紹介です。登録者は毎年15~20名程度いて、今年度(2024年度)も18名が登録しています。
登録者は初めにキャリアコーディネーターと必ず面談をします。面談では本人が描いているキャリアの目標や計画のほか、家族構成、育児支援環境、パートナーの労働状況についてもヒアリングします。そのうえで所属科を交え、1週間に何時間働き、どのような診療や研修をするのかを相談したうえで、週間予定表の中に具体的に落とし込んでいきます。その計画でまず就業してみて両立が難しい場合は、キャリアコーディネーターが本人や所属する診療科と調整しながら随時、内容を修正していきます。
このような柔軟性のある対応が可能なのは短時間勤務制度を新設し、常勤枠とは別枠(復職支援枠)で女性医師を採用し、処遇面においても区別しているからです。これは同僚医師が気持ちよく働くことができ、かつ医師同士の分断を生まないうえでも大事なポイントであると考えています。
一方、育児との両立をサポートするには環境整備も必要です。当院の病児保育室には常勤の保育士がいるわけではなく、毎朝2時間シッターが待機しているものの、その後利用者がいなければ業務終了となる契約で、利用者の当日朝の連絡に対応しやすく、かつ運営コストを抑えています。県内ではこの形態の病児保育室を「筑波方式」と呼び、ほかの病院にも広がっています。また、病児保育室の運営には小児科の協力も欠かせません。当院の病児保育室では、小児科の担当医が巡回して病児の状態を把握しています。今では看護師、薬剤師をはじめとする病院スタッフ、そして男性医師も病児保育室を利用できるようになりました。
私たちが18年間で支援した女性医師の約8割が短時間勤務を経たのちフルタイム勤務へ移行しています。医療経営の観点からの成果は不明ですが、病院や診療科においても一定の満足感があるため、長期にわたってシステムを継続できていると思います。それは利用する女性医師にも言えることで、自分たちがこの支援システムを利用してよかったと感じたから後輩に紹介するという流れが生まれていると感じます。また、単なる子育て支援ではなく、女性医師のライフステージにおいて最も大変な時期を乗り切るための一時的なサポートとして位置づけたことも成功ポイントであると捉えています。
男性が育児休暇を取得することが奨励される時代となり、短時間勤務をしながら子育てをしたいと考える男性医師も出てきています。今後は、このキャリアアップ支援システムを男性医師にも拡大し、男女を問わず、いろいろな働き方が選択できる勤務体制を整備していく必要性を痛感しています。それは茨城県の医師確保にも大きく貢献することでしょう。
今や避けては通れない課題であるため、それぞれの医療機関においても、さまざまな子育て支援策を検討・導入し、女性医師や若手医師が継続して働ける環境づくりに取り組まれていると思います。一方で、そのことを知らない女性医師・若手医師も少なくありません。育児中の医師に‟あの病院で働きたい”と思ってもらえるよう院内でひっそりと行うのではなく、そのことを支援制度として公表し、地域にアピールすることが肝心です。
▼性医師キャリアアップ支援システム
https://www.hosp.tsukuba.ac.jp/iryojinGP/iryoGP2/program/index.html