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執筆
弁護士・医師 渥美坂井法律事務所所属
メディアスホールディングス(株)社外取締役(監査等委員)
越後 純子
筑波大学医学専門学群卒業。同大学大学院医学研究科、桐蔭横浜大学法科大学院修了。2010年に弁護士登録し、同年より金沢大学附属病院で院内弁護士としての活動を開始。2015年より虎の門病院に勤務。2022年1月より渥美坂井法律事務所に所属。メディアスホールディングス㈱社外取締役。
前号では、医療広告該当性について、法律で定められた広告可能事項以外の内容は掲載できないものの、例外的に記載できる場合の限定解除の要件について解説しました。本号では、実際に医療機関の広告を作成するにあたって、限定解除要件を満たしたとしても、禁止されている広告の内容について解説します。
虚偽広告については、「患者等に著しく事実に相違する情報を与えること等により、適切な受診機会を喪失したり、不適切な医療を受けるおそれがある」として、禁止されています。また、「品位を損ねる内容の広告等、医療広告としてふさわしくないものについても、厳に慎むべき」とされています。事実に基づかない加工を施した治療効果の写真や、結果の保証等が該当します。
特に、虚偽広告については、下記が明示的に禁止されています。
(1)比較優良広告
(2)誇大広告
(3)公序良俗に反する内容の広告
(4)患者その他の者の主観又は伝聞に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談の広告
(5)治療等の内容又は効果について、患者等を誤認させるおそれがある治療等の前又は後の写真等の広告
医療広告ガイドライン1および医療広告ガイドラインに関するQ&A2(以下、ガイドライン等)の内容もふまえて、解説していきます。
(1)他の病院又は診療所と比較して優良である旨の広告(比較優良広告)
例えば、「最高」「No1」「県内1」「日本1」等の表現は、「事実であったとしても、優秀性について、著しい誤認を与えるおそれがあるために禁止」とされています。また、「必ずしも、実績等の記載を妨げるものではないが、求められれば内容に係る裏付けとなる合理的な根拠を示し、客観的に実証できる必要がある」とも記載されています。
データを示すことは、患者の便宜にもなりますが、数字が独り歩きすることもあり、誤解を招かないよう配慮が必要になります。そのためにも、EBM(Evidence based medicine)の時代ですから、根拠もあわせて示す必要がある点に注意が必要です。
その他、優位性を誤認させるおそれのある表現として、「著名人との関連性を強調」や、他院の誹謗中傷等も禁止されています。
ちなみに、新聞や雑誌の広告掲載を除く紹介記事は、その内容が比較優良広告とならない範囲でのみ許容されるため、記載内容によっては認められない場合があります。特に、順位付けをしているような内容の場合、出版社等が記載することは広告に該当しませんが、それを自院のHP等に掲載、引用することは、比較優良広告に該当するため、注意が必要です。
(2)誇大広告
ガイドライン等には、「最適」「必ず」「絶対」といった、効果を暗示するような表現、実際は届出をすれば実施できるにも関わらず、特別な許可を得ているような表現、科学的根拠に乏しい情報を提供して誘導する表現等が、禁止事項として挙げられています。
手術件数についてデータの根拠を示さず、概括的に長期間の総手術件数のみを記載している場合も誇大広告に当たる場合があるとされています。正しい記載法の例示として、年次、術式毎に件数を記載すること等が推奨されています。同じデータでも、表示の仕方によって誇大広告とされてしまう場合があるという点に注意が必要です。
(3)公序良俗に反する内容の広告
禁止例として、わいせつ若しくは残虐な図画や映像又は差別を助長する表現等が挙げられています。
(4)患者その他の者の主観又は伝聞に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談の広告
患者や家族の体験や感想等を、医療機関が医療機関への誘因を目的として掲載することは認められません。個人の状態や主観に左右され、誤認を与えるおそれがあることが理由とされています。患者アンケートの結果を転載することも禁止されています。他方、医療機関からの依頼を受けていない患者個人が、自らの治療体験を個人のウェブサイトやSNS、口コミサイト等で発信することは、誘因性が無いため禁止事項には該当しません。
また、ステルスマーケティング(ステマ)広告は、2023年10月から景品表示法の不当表示として禁止されています。大手口コミサイトへの優良情報の書き込みを条件に料金の割引を行っていたクリニックが、2024年6月に同法の違反1号事例として摘発されました。
(5)治療等の内容又は効果について、患者等を誤認させるおそれがある治療等の前又は後の写真等の広告
これは、治療等の前又は後の写真等掲載の全てが禁止されるわけではなく、「通常必要とされる治療内容、費用等に関する事項や、治療等の主なリスク、副作用等に関する事項等の詳細な説明を付した場合についてはこれに当たらない」とされています。ただし、治療後の写真については広告可能事項ではないため、限定解除要件を合わせて満たす必要があります。
厚労省では、医業等に係るウェブサイトの監視指導のため、ネットパトロールを行っています。これは、消費者からの通報を受け付けるのみならず、委託事業者が自らネット情報を検索し、問題になる掲載に対して行政指導を行うシステムです。実績の報告3もされており、美容領域、歯科領域を中心にかなりの数の指導を受けていることが分かります。
医療広告においては、安全性の観点から、法律やガイドラインに広告可能な内容について細かい定めがあります。単に規定があるというだけではなく、当局によるパトロールが実施されていることも認識し、適正広告を心がけることが肝要です。
1 医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン)
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001304536.pdf
2 医療広告ガイドラインに関するQ&A
https://www.mhlw.go.jp/content/001231198.pdf
3 ネットパトロール事業について(令和3年度)
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001036049.pdf