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執筆
株式会社千正組代表
元厚労省官僚
千正 康裕
慶応大学法学部卒。2001年厚生労働省に入省し、8本の法律改正に携わる。2019年に退官後、コンサルティング会社「千正組」設立。内閣府、環境省の有識者会議委員を歴任。朝日新聞デジタル有識者コメンテーター。著書に「ブラック霞が関」(新潮社)など。
医師の働き方改革は、社会全体の働き方改革の流れで出てきたものです。労働力人口が大幅に減少していく中で、労働力確保と生産性向上を図らないと経済社会が維持できません。労働力人口が減少していく中で、人材確保が課題というのは医療も同じです。保険診療の世界では、医療の値段は医療保険制度の中で一律に決められているため、サービスの質を上げて単価を上げ、賃金を上げるという経営戦略を取るのは難しいと言えます。昨今、若手医師が自由診療や美容医療の世界に流れているのも、このことと無縁ではないでしょう。医師や医療者の待遇については、医療保険制度の中での大きな議論が必要と思いますが、個々の医療機関としては、待遇面以外の職場の魅力を高めることも重要な経営課題ではないでしょうか。
若い人たちは長時間労働に抵抗がある傾向がありますが、中には「面白い仕事ができるなら長時間労働もいとわない」「自分が成長できるなら多少大変でもよい」という人も少なくありません。志ある若者の心が折れる要因の一つは、「非効率な仕事のやり方をしている」「やる意味が分からない作業がある」「本質的なことに時間を使えず作業に追われる」ということです。筆者はアラフィフですが、インターネットが普及し始めたのは大学生の頃で、スマートフォンやSNSが普及し始めたのは30代半ば。基本的には学生時代も非効率や無駄だらけが当たり前の時代に育ち、就職してからもある意味では徒弟制度のような環境の中で仕事を覚えていきました。今の30代の人たちは、子どもの頃からインターネットがあり、大学生くらいの頃にスマートフォンを手にしています。もっと若い世代は完全にデジタルネイティブで、キーワードは「タイパ」「コスパ」です。勉強や調べもの、娯楽にしても、最短距離で求めた結果に想定通りにたどり着けるのが当たり前の環境で育っていて、そうでない世界を知りません。図書館に行って本を探して10冊本を読み、やっと納得のいく答えが見つかるというようなプロセスは全く想像がつかないのではないでしょうか。ゆえに、就職して、所属組織の旧態依然とした非効率なやり方に接するとショックを受けることもあるでしょう。今の時代にあった効率的なオペレーションの職場にしていくことで、若い職員の人材確保と運営の効率化の両方が図られるのではないかと思っています。
しかし、どの医療機関にも長年やってきたオペレーションがあり、それを変えるということには、トランジットコストもあるかと思います。新しい医療機関におけるオペレーションは、現在の最適化されたシステムが導入されている可能性があります。また、医療以外の自由競争市場における対人サービスのオペレーションの中にも大いにヒントがあるかもしれません。新しい医療機関や医療界の外のよい取組みの導入を検討してみてはいかがでしょうか。