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株式会社セントラルメディエンス 代表取締役 中川 隆太郎

株式会社セントラルメディエンス 代表取締役

中川 隆太郎

創業6年目にて、グループ年商66億円。グループ病院2つを傘下に持つまでに事業を拡大。医療人材紹介や医療資材卸、ヘルスケア専門メディア「からだにいいこと®」の運営も行う。医療分野におけるリーディングカンパニーとして、病院の再生や地域医療をサポートしている。

バックオフィス業務の効率化

複数の医療機関でアライアンスを組み

業務の一元化を図る

 医療経営をめぐる情勢が厳しさを増す中、バックオフィス業務の効率化が必須となっています。しかし、単独で行うことには限界があり、経営者には発想の転換が求められています。医療経営のサポート事業を展開するセントラルメディエンス代表の中川隆太郎氏は公衆衛生の経験をもとに、複数の医療機関がアライアンスを組んでバックオフィス業務を一元化することで1病院の業務量とコストの負担軽減を図ることを提案しています。

バックオフィス業務の効率化 複数の医療機関でアライアンスを組み業務の一元化を図る

医療経営情勢が厳しさを増す中、
バックオフィス業務の効率化は必須

 24年度診療報酬改定が6月1日から施行されました。今回はトリプル改定となり、病床規模にかかわらず、どの医療機関も事務方を中心に対策と対応に追われたことでしょう。医療機関が提供する医療コストの大半は診療報酬によって賄われていますが、医療従事者の働き方改革、医療DX、昨今の物価高への対応など、診療を継続するためにかかる諸費用は膨れ上がっています。さらに近年は人材難が続き、給与水準が右肩上がりの一般企業と人材を取り合っても勝ち目がなく、そのうえ離職を防ぐ対策コストは診療報酬に含まれていないので、対策を打てば打つほど赤字になるという悪循環に陥っています。

 一方、医療機関に対する融資は年々ハードルが上がっており、実効性の高い事業計画を提示しなければ資金提供は受けられず、「医療機関は社会の公器だから」という理由で融資してくれる時代ではなくなっています。

 このように医療経営をめぐる情勢が厳しさを増す中、バックオフィス業務の効率化は必須となっています。しかし、これを単独で行うには限界があり、経営者には発想の転換が求められています。すなわち「病院氷河期」を生き残るには今こそ‟緩やかな連帯”が必要です。取り組まなければならないバックオフィス業務は、どの病院も共通しているため、それらの業務を一元化し、1病院あたりの業務量とコストの負担軽減を図るのです。

医療人材やPR・啓発活動の面でも
アライアンス効果が期待できる

 この提案は、航空会社のアライアンスの仕組みをモデルにしています。航空会社の経営は独立採算制が基本です。一方でアライアンスを組むことにより他国の空港での整備の人材や機器を共有し、また航空機を共同購入することで1機の価格を抑えるなど運航を継続するためにかかる費用と集客、バックオフィス業務の効率化を図っています。

 医療界でも以前から複数の医療機関が薬剤や医療資材を共同購入する仕組みがありますが、その範囲を拡大することによってさらなるメリットが得られると考えています。そこで、当社では、バックオフィス業務の範囲を広げた支援を行っています。医療機関が希望するサービスだけを個別に提供するのではなく、トータルかつアライアンスを組むことを基本としています。その理由は①アライアンス効果を最大限に引き出したいこと、②どれか1つだけを対策しても診療報酬で要求される医療行為に対してコストをなるべくかけずに行うのは難しいからです。

 アライアンス効果は、医療人材やPR・啓発活動の面でも期待できます。医療界は転職しやすい業界ゆえに今後も人材の流動化が止まることはありません。むしろ発想を転換し、組織を活性化させるうえでもどんどん進めるべきだと思います。しかし、そのためには単なる人材流出にならない仕組みを作ることが肝心で、複数の病院がアライアンスを組むことによって本人のキャリアデザインに応じて人材を流動させることが可能になるでしょう。

 また、集患するうえで地域へのPR・啓発活動は欠かせないものの、一般の人を引き付ける魅力的なコンテンツを制作し、多くの人の目に留まるようプロモーションを繰り返すことを1病院で行ってもコストが見合いません。そのため、多くの医療機関は諦めざるを得ないのが現状です。しかし、これもアライアンスを組むことで実現しやすくなります。

医療スタッフを巻き込むことで
医療の質向上や地域連携にも貢献

 一方、バックオフィス業務の効率化を進めるうえでは医療スタッフを巻き込むことも大切で、その際のポイントは経営収支を公開することです。ある病院では医療スタッフのリーダーたちに経営収支を毎月公開するようにしたところ、コスト意識だけでなくモチベーションも高まり、収支が合うようにするにはどうすればよいのか各部署で日常診療の工夫や改善に取り組み始めたそうです。その結果、副次的な効果として医療の質も向上しました。

 また、現場からは、空き時間を活用し地域の診療所や中小病院にCTなどの画像機器を開放する案も出てきました。この取組みにより画像診断料の増額だけでなく、地域連携が促進され、診療所からの紹介患者が増加し、結果として増患につながっています。

 こうした院内からの自発的な効果を働きかけるには医師に対しても協力を求めることが重要です。ある病院では手術に使用する医療資材のコストを提示し、医師たちに手術の質(手術時間と成績の関係)や適応の面から見直してもらうことで治療の適正化につながりました。同様に、ある病院では医師に経営収支を公開することでコスト意識が高まり、なかなか進まなかった外来診療のタスクシフトが進展し、効率的に診療が行えるようになったといいます。このような好事例はバックオフィス業務の効率化に取り組んだ医療機関に散見され、経営収支は赤字から黒字に転換しています。

 そして、経営の永続性と診療活動の好循環が見えてきたことで医療スタッフの士気が上がり、よりよい医療サービスを提供することで医療経営がさらに安定するという好循環が生まれています。このような実例を通し、複数の医療機関でアライアンスを組んでバックオフィス業務の一元化を図ることが生き残りをかけた病院経営の新たな扉を開くと確信しています。

医療におけるバックオフィス業務の一例
医療におけるバックオフィス業務の一例