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執筆
株式会社千正組代表
元厚労省官僚
千正 康裕
慶應義塾大学法学部卒。2001年厚生労働省に入省し、8本の法律改正に携わる。2019年に退官後、コンサルティング会社「千正組」設立。内閣府、環境省の有識者会議委員を歴任。慶應義塾大学総合政策学部特別招聘准教授。著書に「ブラック霞が関」(新潮社)など。
実務的には、医師の時間外労働時間の上限規制と捉える方もいるかもしれませんが、この問題はもっと大きなテーマです。「働き方改革」は、日本社会全体の将来のためにも、医療自体を守るためにも避けては通れません。
筆者は、厚労省官僚時代に幅広い政策を担当してきましたが、最後に「医師の働き方改革」を責任者として担当していました。2019年9月末に退官し、独立起業した後も、施行に向けたプロジェクトに関与しながら、解説記事の執筆や講演なども多く経験しています。医療以外にも社会保障、福祉、こども政策、労働政策など関連する専門分野があります。また、今は経営するコンサルティング会社を通じて、医療というものを政策の窓からも見るし、職域団体、病院団体、製薬団体という窓から見ることもあるし、患者側の立場に立つこともあります。そして、ビジネス領域から見ることもあるし、労働者の視点で見ることもあります。この連載では、幅広い視点から医師の働き方改革について話していきたいと思います。読者の皆様は臨床や病院経営のど真ん中にいる方が多いと思いますが、広い視点、長い目で医療を考えるきっかけにしていただければ大変嬉しいです。
医師の働き方改革は急に決まったことと思っているかもしれませんが、背景には国全体の大きな方針があります。日本は少子高齢化・人口減少の中で働き手がどんどん減っていく時代に入っており、今後さらに人手不足が深刻化していきます。女性や高齢者の就業率も上がっています。昭和の時代のように「働き手=いくらでも働ける男性」ではありません。働く人の置かれた状況や生活もかなり多様になり、今やほとんどが共働き世帯です。社会の指導層が育った時代のように自分の時間のすべてを仕事に使える人は少数派です。業種を問わずそのような働き方を続ける職場では、人材が確保できなくなっていくでしょう。働き手が減少していく中で、社会経済を維持していくためには、①働き手を増やすこと(女性・高齢者・外国人など)、②1人当たりの生産性向上、の2つが必要です。具体的には、長時間労働の是正、一人ひとりの状況に応じた多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保(非正規雇用の処遇改善など)といった取組みです。
こうした考えの下で、働き方改革関連法案が成立し、2019年4月から一般の職種では時間外労働の上限規制などが導入され、長時間労働が明らかに是正されてきています(図参照)。一般企業の働き方は既に大きく変わってきています。若い人に医療が選ばれる仕事であり続けるために、医療現場も今変わるべき時を迎えていると言えるでしょう。
出典:「男女共同参画白書 令和5年版」(https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r05/zentai/pdfban.html)