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宮崎大学医学部附属病院 診療情報室長
医事課 専門員
平島 しおり
社会福祉士の資格を持ち、医療機関でのソーシャルワーカー、行政のキャリアコンサルタントを経験。診療情報管理士養成校での教員時代に診療情報管理の活用に関わりたいとの思いから、2015年に宮崎大学医学部附属病院の医事課に診療情報管理士として入職。2021年から現職。
宮崎大学医学部附属病院では、医師事務作業補助者をドクターズクラークと呼び、全診療科に配置し、医師の業務のタスクシフトや診療科連携を促進しています。同院診療情報室長の平島しおり氏にドクターズクラークの業務や採用、育成について伺います。
宮崎大学医学部附属病院(632床:一般596床+精神36床)は県内唯一の特定機能病院です。職員は1,540名で事務職員は216名、そのうちドクターズクラークは50名です(2023年6月現在)。
ドクターズクラークは、文書作成補助、診療記録への代行入力、医療の質の向上に関する事務作業、行政上の業務が仕事です。本院は卒後臨床研修センターをもつ基幹型臨床研修病院として医師の教育も行っているため、ドクターズクラークが記録のすべてを代行するのではなく、退院時サマリ作成リマインドや画像診断・検査結果に伴う医師のアクションを確認するなど、「診療記録を読める」ことを自分たちの強みとした役割を担っています。もちろん、診断書作成などの事務作業の代行も行っています。最近ではインフォームド・コンセント時の説明記録の代行入力に注力しており、2023年度では全体の11%、救命救急センターでは43%の代行入力を行い、医師が本来の診療に専念できるようサポートしています。
本院では、2016年から診療情報管理士資格取得による病院特定常勤としての待遇の保障が始まりました。この年から特定機能病院入院基本料でも医師事務作業補助体制加算Ⅰの対象となり、医師のタスクシフトも考慮して、ドクターズクラークに活躍してもらいたいという病院の思いがありました。以前は任期ありの事務補佐であったため、人の入れ替わりが激しく、業務の質を高めることが難しい状況でした。質の高い職場環境を生み出すために、よい人材を雇用し、長く勤めてもらおうということになったのです。
導入トライアルとして産科・婦人科と整形外科の外来に1人ずつ配属しました。両科は病院長と副病院長が所属し、病院全体を方向づける医師の理解が進みやすいと考えられたからです。また、整形外科の診療室は個室でありながらもオープンで、ドクターズクラークが対応しやすい一方、産科・婦人科はプライバシーへの配慮から個室にドクターズクラークの受け入れが可能かを検証するためでもありました。このときに、患者さんに医療スタッフと認識してもらうため、事務服ではなく、スクラブを着用することにしました。
同時に、この2診療科でのドクターズクラークの業務を、どの診療科でも対応可能となるようマニュアル化し、外来全体、各センターなどの診療部門、病棟と、診療の流れに沿って配属先を拡大し、3年で全診療科配置を達成しました(図1参照)。配属直前には医師から「承認をするのであれば自分でやる方が早い」などの意見もありましたが、業務を明確にしたこと、リマインドサポートを行うドクターズクラークが必ず近くにいることが安心につながり、病院内での理解に広がったと思います。ドクターズクラークは柔軟なつなぎ役となっています。
ドクターズクラークの応募条件には診療情報管理士の資格取得者または医療機関での勤務経験があることが条件です。診療情報管理士の資格を持たない場合は採用後に試験対策講座を実施しています。これまで多くの者が仕事をしながらスクーリングなどにチャレンジし、合格しています。その後もキャリアアップを目指し、がん登録実務初級・中級を取得した者もいます。採用後、医師事務作業補助体制加算の診療報酬上の算定要件となる6か月間は研修期間として業務を行いながら32時間研修を受けてもらいます(図2参照)。この研修は医師、薬剤部・検査部・放射線部・栄養管理部の技師長等、医療安全管理部、医療情報システム室、医事課職員を講師とし、診療の特徴や病院のしくみの理解を深めています。
また、宮崎県医師会が主催する医師クラーク育成スキルアップ研修をはじめ、経験5年以上のドクターズクラークには日本医療マネジメント学会主催の医師事務作業補助者指導者養成講習会への参加を促しています。さらに、診療情報管理士養成校のドクターズクラーク実習を受け入れています。学生さんに教える立場に立つことで、ドクターズクラークの役割を振り返り、精査する機会になっています。
2021年に診療情報管理部が設置され、ドクターズクラーク、診療情報管理士、診療報酬請求担当の間での人事異動が可能となりました。これは医事スタッフの努力をマネタイズ(収益化)する医事課の役割の1つとし、人材育成、適材適所の実現によって離職を防ぎ、組織の活性化につなぐことを目指しています。
すべてのドクターズクラークがリーダーあるいはチームメンバーとしての立場を経験できるよう、チームリーダー制(総務、業務、教育、マネジメント)と業務リーダー制(診断書、様式、診療情報サポートチーム、診療情報共有伝達確認室の各業務)を敷いています。
将来的に人工知能(AI)が業務に採り入れられても、多職種をつなぐドクターズクラークの仕事は益々重要になると予想しています。ただ、医師からのタスクシフトでドクターズクラークの業務範囲が拡大し、人手不足で採用難になる可能性があるので、業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)は必要です。DXには、業務を可視化し、DXを推進・実行するためのスキルを有し、柔軟に周囲にアプローチできる人材が求められます。DX人材の育成とチャレンジできる環境をつくることが私たち管理職の課題であり、責務だと考えています。