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特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長
医療環境総研株式会社 パートナー兼CEO
藤井 将志
早稲田大学政経学部を卒業後、医療経営コンサルティング会社を経て、沖縄県立中部病院経営アドバイザーに就任。2015年から谷田病院事務部長。2020年に医療環境総研株式会社を設立。現在、『日経メディカル』オンラインで「藤井将志と考える医療マネジメント」を連載中。オンラインサロン「病院事務の知恵袋」も運営している。
病院の事務職員の人材育成に関し、人口約1万人の熊本県上益城郡(かみましきぐん)甲佐町(こうさまち)にある谷田病院の取組みが注目を集めています。「事務職員全員を事務長に!」を合い言葉にジョブローテーションや研修の制度を整備し「医療マネジメント職」を育てる同院事務部長の藤井将志氏に、その意図や育成の成果を伺います。
谷田病院は、開業は1953年(昭和28年)で、病床は85床(地域包括ケア病棟55床、医療療養病棟30床)と介護医療院14床、訪問看護ステーションや居宅介護支援センター、通所リハビリテーションセンター、サービス付高齢者住宅も運営しています。職員は約280名で、うち36名が事務職、16名が医療マネジメント職です(2023年10月末現在)。
私は2015年に事務部長として縁もゆかりもない甲佐町にやってきました。その後、採用にも関わるようになりましたが、新規採用した事務職員がなかなか定着せず、さらに2016年の熊本地震で離職者が増え、それを機に事務職員のコンセプトと採用条件を見直しました。「医療事務の経験者」という条件を、医療事務の経験がなくてもなれる「医療マネジメント職」に変えたのです。
医療マネジメント職の特徴は、事務職の各部署の業務をジョブローテーションで6年から10年かけて経験し、病院経営に積極的に関わる人材に育ってもらうというものです。「全員が事務長になる」ことをゴールに掲げています。
ジョブローテーションを開始するにあたり、各部署では引き継ぎが不要になるよう職務マニュアルを整備しました。また、医療マネジメント職には月3時間のマネジメント研修への参加を義務づけています。そこでは医療経営、経営学修士(MBA)、診療報酬や介護報酬などに関連するテキストを用いて、タイムマネジメントや業務改善などについて学びます。On-the-Job Trainingに加えて、通常の業務や職場を離れて行うOff-the-Job Trainingも、定期的に実施しています。また、医療マネジメント職として採用した職員に「では事務長に必要な能力とは?」と問われたことをきっかけに「事務長のコンピテンシー」も公開しました。
採用制度を変える以前からの事務職員も、希望すれば給与体系を維持したまま医療マネジメント職に職種変更ができます。事務方としての専門性を重視する人がいるのも理解していますが、まずは全体がわかる人材を育てたい。こうして人材育成に力を入れていることを知ってもらえれば、病院のブランディングにもなると思います。
ジョブローテーションが終わった職員は、本人の希望を聞いて各部署に配置します。また、私が仲間と設立した医療環境総研に移籍し、他院の経営支援に従事する道もあります。これまで数名がジョブローテーションを終えており、1名はもともとの予定通りに課長職に就き、2名は医療環境総研で経営支援に携わっています。
2020年、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が始まったとき、甲佐町医師会が検査のためのドライブスルーの臨時診療所を設立することになり、当院の医療マネジメント職1名を派遣しました。彼は厚生局への設立届やロジスティックスなど設立業務のすべてを1人でこなしました。これはジョブローテーションの成果であり、医療経営の視点を持っていたからだと自負しています。その後当院への紹介患者も増えました。
求人は随時行っており、年間の応募者は10名ほどで、「来る者拒まず」の姿勢で採用活動を行っています。面接では最初に当院の特徴や医療マネジメント職について説明し、本人がやりたいことを傾聴します。入職の希望はその場では受け付けず、面接後はこちらから連絡しません。そして入職希望者には、医療マネジメント職の職員の前で病院経営に関して15分程度のプレゼンテーションをしていただきます。このプロセスで段取り力など、事務的な力を見ます。さらに、課長職との面談で自らビジョンやゴールを決めてもらいます。このような流れで、応募から1カ月弱くらいで採用を決めています。
採用した職員には、前職がウェディングプランナー、弁当販売店の店主、公務員、商社マンなど、それまで医療とは関係しない職場で働いてきた人も増えています。
近い将来、厚生労働省は電子カルテの標準化を構想しています。デジタルトランスフォーメーション(DX)や人工知能(AI)の導入で病院事務や労務はさらに変わっていくでしょう。新しい状況においても自ら病院経営を見据えた判断ができ、業務に落とし込むことができる人材が必要です。
現在当院では、他院の事務長候補者の研修を受け入れています。今後は、医療経営に関心のある大学生のアルバイトやインターンも受け入れたいと考えています。医療業界では若手でも意思決定に関わることができる可能性があります。この業界で働く魅力を高めるために、今後も活動を続けていきたいと考えています。