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執筆
弁護士・医師 渥美坂井法律事務所所属
メディアスホールディングス(株)社外取締役
越後 純子
筑波大学医学専門学群卒業。同大学大学院医学研究科、桐蔭横浜大学法科大学院修了。2010年に弁護士登録し、同年より金沢大学附属病院で院内弁護士としての活動を開始。2015年より虎の門病院に勤務。2022年1月より渥美坂井法律事務所に所属。メディアスホールディングス㈱社外取締役。
このコーナーでは、ダブルライセンスの元院内弁護士が、医療現場で役立ちそうな、法律や倫理的なトピックをご紹介します。
プライベートのみならず、仕事上の情報発信やコミュニケーションのためにSNSを利用している医療者は多いのではないでしょうか。しかし、SNSは使い方に配慮が欠けてしまうと、批判の的となりトラブルに発展してしまう可能性があります。今回は、医療者がSNSを利用する際の注意点について解説します。
SNSは、身近な人のみならず、直接面識がない人々との間のコミュニケーションをはかるツールとしてすっかり定着しています。SNSを利用すること自体、本来何ら問題ないはずですが、医療者においては社会的責任と多くの職種において法律で守秘義務が課されていることとも相まって、それ以外の方とは異なる配慮が求められる場合があります。
SNSの顕著な特徴として、拡散の速さと、ひとたび拡散すると、その広がりを止められない、すなわち、全てを消去することは不可能に近いことが挙げられます。そのため、思わぬ反響を生じた場合、コントロール不能になってしまい、多大な被害を受けることがあります。法律上の手段として、ネット上の他人の投稿を削除するための手続きはありますが、費用と時間に見合った効果はあまり期待できません。また、情報という性質上、事後的に消去しても既に伝搬しているので、被害の拡大を止めることはできても、発生してしまった被害が減る訳ではありません。
一般に、SNSの投稿には投稿者の日々の生活を綴ったものが多数みられます。その中には、たとえ匿名であっても、容易に投稿者が特定できる場合も多々あります。また、その投稿内容について固有名詞を使用していないにも関わらず、対象者が特定できたり、はたまた対象者以外の人が自分の事を投稿されたと勘違いしてしまう場合もあります。
医療者の一挙手一投足は、本人が思っている以上に注目されています。この様に受け取られてしまう背景として、世間からの信頼や守秘義務が挙げられます。随分前のことですが、列車の脱線事故が発生した現場で、運転士がその様子を写真に撮り、SNSで内輪に共有したところ、瞬く間に拡散し、炎上したことがありました。他方、海外で、修学旅行生が乗った船が沈没する際に、その様子を乗船していた生徒がSNSに投稿し、その後投稿者は間もなく水没死しましたが、世界中から注目されました。同じ公共交通の事故の最中の投稿であっても、評価が2極化するのは投稿者の属性にあります。片や、運転士は乗務員として乗客の安全を最優先しなければならないのに対し、修学旅行生は迫りくる生命の危機を顧みず、惨状を伝えようとしたことが高く評価されたのでしょう。
医療者の内輪の日常生活を綴ったものであっても、患者にとっては非日常であり、最優先で自分の事を気にかけて当然だと思っている患者は一定数います。その様な患者は医療者のSNSを興味深く見ているかもしれません。例えば、「手術を終えて速攻で飲み会に行きました」といった内容について、範囲を限定して投稿したとしても、何かのきっかけで拡散し、患者やその家族の目に留まるかもしれません。術後の経過が思わしくない状況で、病院や日付、医師の名前が特定できてしまうと、投稿を見た人は、実際に自分が受けた手術ではなかったとしても、自分の手術の様な気分になってしまうこともあります。その様な場合、少なくとも良い気持ちはしないでしょう。したがって、固有名詞が入っていなくても、相手が自分の事だと思ってしまう様な投稿は避けるといった配慮が重要です。上記のような場合、手術が終わった勤務後のプライベートの記載ですが、信頼関係が揺らぐ様な出来事が発生してしまうと、相手が好意的に解釈してくれるとは限りません。実際、医療事故の訴訟で訴えられた側の医師のSNSの投稿が、当該医師の人間性を非難するための証拠として提出されることもあります。
開業医の場合、個人とクリニックの情報発信の区別がしにくいですが、勤務医の場合、医師個人のSNSを通じて、他の人に見える形で特定の患者とやり取りをしていると、患者の扱いが平等では無いと病院に苦情がきたりすることもあります。一般に、日常的に個人のメールやSNSのダイレクトメッセージ等を使って患者とやり取りをすることは、注意が必要です。医療者側が多数のやりとりを日常的に行っていて、履歴が残っていない場合であっても、相手は履歴を保存していることが多いです。事後的に、関係性が悪化し裁判等で証拠として提出された場合、まず、職務なのにも関わらず私物を利用している点で、公私混同していると受け取られがちです。また、医療者側に記録が残っていないと、相手に都合の良い部分だけを使われるリスクもあります。近時は、オンライン診療等も増えてきていますから、対面以外で患者やその家族とコミュニケーションを取る機会が増えていると思います。この様な場合、面倒でも病院の公式なツールを利用して記録が残る形でコミュニケーションすることが重要です。
患者のプライバシーに触れる情報については、患者情報に日常的に接している医療者に比して、患者を含め非医療者が、予想以上に敏感に反応することが少なくありません。機微に触れると、人間は感情で反応します。非医療者である相手の立場に立って、自分や家族が同じことをされたらどの様に感じるかを考え、情報を丁寧に扱う姿勢が求められます。