/* Template Name: 投稿ページ「アソースタイムズ」 Template Post Type: post,asourcetimes */ ?>
ASOURCE®TIMES
社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院 理事長
神野 正博
1980年日本医科大学卒業。86年金沢大学大学院医学専攻科修了(医学博士)。同大学第2外科助手を経て、92年恵寿総合病院外科科長、93年同病院長、95年より現職。近年は医療DXにも力を入れ、先端病院として注目されている。全日本病院協会副会長、日本社会医療法人協議会副会長、日本病院会常任理事ほか国の社会保障審議会医療部会委員等の要職を歴任。
超高齢社会を背景に入院前から介護を必要とする高齢患者が増える中、急性期病院では介護力の強化が喫緊の課題となっています。介護部を創設した恵寿総合病院の取り組みを通して、理事長の神野正博先生に介護職の位置づけ、看護業務との分担など介護力強化のポイントを伺います。
厚生労働省の調査によると、75歳以上の約3割、85歳以上の約6割が要介護者で、当院に入院する高齢者もほぼ同じ割合です。入院をきっかけに要介護状態になる人も少なくなく、当院では75歳以上の入院患者のうち25%程度が退院時に要介護状態になるというデータもあります。しかし現在、急性期病棟の看護業務をはじめ、医療の実践を逼迫させているのは入院する前からすでに要介護状態になっている高齢者です。
当院では、救命を第一義とする急性期病院だからといって治療だけではすまされなくなってきた現状に数年前から大きな危機感を抱き、要介護者に対する急性期医療のあり方を見直してきました。当院を含め、多くの急性期病院では治療を優先するために要介護者に安静を強いてきましたが、これからは退院後の生活を見据え、治療中から要介護者を積極的に動かし、ADL(日常生活動作)をできるだけ損なわないようにすることが求められています。そして、その際のカギとなるのが病棟の介護力とリハビリ力です。
そこで、当院では介護力を強化するために2022年9月に介護部を創設しました。23年5月現在、43名の介護職が所属し、地域包括ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟などを中心に10病棟に配置しています。将来的には100名の介護職を採用し、夜勤帯を含め全病棟での稼働を目指しています。
看護部の中に介護部門を組み込み、介護職を看護助手として活用する急性期病院も少なくないですが、当院では看護のカウンターパートとして介護を位置づけ、組織上でも看護部長と介護部長は並列の関係にあります。なぜなら、看護師と同様に療養上の世話を担当していても、介護職の視点は看護とは異なるからです。「生活を支援する」ことが介護の目的であり、急性期病院でもその専門性を存分に発揮してもらうには一部門として独立させることがとても重要であると考えています。
そもそも患者さんはある日を境に医療対象から介護対象に切り替わるのではなく、その看護・介護の必要度にはグラデーションがあります〈図参照〉。
例えば、手術直後の管が入っている状態でのオムツ交換は、治療が優先される段階なので安全を確保するうえで医学的知識のある看護師が対応するのが適切です。しかし、病状が回復し退院を見据えたリハビリが中心になってきた段階での排泄介助は、自立を促すコツに長けた介護職が対応するのがADLを維持するうえで望ましいでしょう。看護現場では、オムツ交換、食事介助、入浴介助といった作業ごとに看護と介護を切り分けようとしますが、患者さんに適切な医療を提供するためには、「患者さんの状態の変化に合わせて専門職が交代する」という発想が必要です。この切り分けは医療アウトカム(在院日数短縮化、在宅復帰率、要介護防止等)だけでなく、患者さんの満足度も向上させます。
さらに当院では、この2職種が専門性の高い業務に集中できるよう看護補助業務や環境整備にかかわる業務を細かく作業分解し、入浴介助、移送業務、車椅子の整備といった作業ごとに「アシストクルー」を配置しています。クルーを募集する際もこの作業単位で行っていますが、看護助手で募集していたときはほとんど応募がなかったのに、業務内容を絞って明確にすると仕事を求めてアクティブシニアがたくさん集まってくるようになりました。
総括すると病棟の介護力を強化することを看護部だけにまかせるのではなく、病院長、事務長などの経営層が病院運営上の重要な課題であることを認識したうえで、看護と介護の専門性が有機的に連動する仕組みを作り上げることが成功の秘訣です。
介護職を専門職として位置づけることでさまざまな効果が出ている半面、診療報酬上では看護補助者として扱わせざるを得ません。しかし、急性期医療の中で介護が占める割合がこれだけ大きくなると、診療報酬だけでは賄いきれず、介護報酬を混在させるべきです。
日本病院団体協議会では令和6年度の診療報酬改定で病棟における介護職の評価を国に要望しています。当院でも報酬の評価につながるよう急性期病院における介護職の役割を確立し、そのエビデンスを創出することに注力していきたいと考えています。