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手指衛生は、感染に対する標準予防策として、世界的にその重要性が指摘されている。医療・介護の現場では手指衛生の遵守を推進しているがなかなか徹底されない現場もあり、新型コロナウイルスの感染拡大で感染防止の意識は急速に変化したものの、施設内感染の散発は続いている。手指衛生の重要性について改めて考える。
新型コロナウイルスの感染の収束が見通せない中、集団感染(クラスター)の発生件数がなかなか減少に転じない。医療施設や高齢者施設のクラスターは減少傾向にあるものの、感染者との接触が避けられない環境だけに、施設内での感染防止は、患者や入所者、スタッフの安全を担保する上で極めて重要である。中でも手指衛生は、感染を防ぐための最も重要な手段として、世界保健機関(WHO)ではガイドラインを作成している。
手指衛生は、行われたかどうか目で見ただけでは確認できないため、スタッフに徹底することは難しいとされてきたが、コロナ禍の状況下で「手指衛生は患者さんだけでなく、本人やスタッフを守る上で大切だと認識され、院内ではこまめな手指衛生が定着した」(愛知医科大学感染症科教授・三鴨廣繁氏)という。
しかし、各地で発生したクラスターについてみると、例えば神奈川県の中核病院で約20人が感染した事例では「患者と接触する際に手指衛生の実施が徹底されていなかった」、大阪府の特別養護老人ホームで感染が広がった事例でも「複数ユニットに勤務する職員が手指消毒せずにシーツ交換などを行なった」と報告されている。
ここで改めて手指衛生の意義について考えてみる。福島医科大学感染制御学教授の金光敬二氏は「手指衛生には、日常手洗い、衛生的手洗い、手術時の手指消毒の3つがある」と話す。日常手洗いは食事前やトイレの後などに、石けんと流水で手指に付いた汚れや通過菌(一時的に手に付き、感染源になりやすい病原微生物)の一部を除去する。衛生的手洗いは、医療・介護スタッフが医療行為や介護の前後に行い、汚れと通過菌のすべてを除去する。手術時の消毒は、手術スタッフが皮膚の常在菌数を減らし、術中の菌の増殖の抑制を目的としている。
医療・介護スタッフには衛生的手洗いが必要であり、目に見える汚れがある場合は石けんと流水で手を洗う。流水による手洗いは手荒れの原因にもなるため、目に見える汚れがない場合はアルコールによる手指消毒を行う。ただし、アルコール抵抗性の微生物等、目に見えない汚染がある可能性もあるため、アルコールに加えて石けんと流水による手洗いの両方行うことが推奨されている。
アルコール消毒剤による手指消毒は、短時間で効果的な手指衛生を行える上、消毒剤を各所に配置したり携帯もできるので、いつでもどこでも手指衛生を行えるというメリットがある。また、保湿剤を含む消毒剤だと手荒れが起きにくいとされる。
手指衛生は頻繁に行う必要があるが、WHOのガイドラインでは患者をケアする際の手指衛生の5つのタイミングが示されている(図)。そのタイミングと目的は、以下の通り。
①患者に触れる前(手指を介して伝播する病原微生物から患者を守るため)
②清潔/無菌操作の前(患者の体内に微生物が侵入することを防ぐため)
③体液に曝露された可能性のある場合(患者の病原微生物から自分自身を守るため)
④患者に触れた後(患者の病原微生物から自分自身と医療環境を守るため)
⑤患者周辺の環境や物品に触れた後(患者の病原微生物から自分自身と医療環境を守るため)
手指衛生を徹底するには、手指消毒剤を施設内の各所に配置する、携帯用容器を持たせるなどの物理的な対策だけでなく、こうした手指衛生の意義と現場で行うタイミングについて、常に啓発する必要がある。クラスターが発生した直後は手指衛生の遵守率が向上しても、やがて低下するケースが多いからだ。対象は、正規雇用のスタッフだけではなく、雇用期間が限られている臨時スタッフやアウトソーシングのスタッフにも行う必要がある。
手指衛生の遵守率向上により、医療・介護施設での感染が低下したとする報告は数多くある。医療・介護施設は、新型コロナウイルスも含めた施設内感染防止に努めることで、患者、入所者、スタッフの安全を確保することが求められる。