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新型コロナウイルス感染症への対応

全診療科一丸で診療、地域連携もさらに強化

愛知医科大学
感染症科 教授、感染制御部 部長

三鴨 廣繁

1989年3月岐阜大学医学部卒業。同年5月同大学附属病院医員。岐阜県立下呂温泉病院、岐阜県厚生連中濃総合病院などを経て、94年9月岐阜大学医学部助手。97年10月同大講師。2003年4月~04年3月ハーバード大学留学。04年4月より岐阜大学生命科学総合研究支援センター嫌気性菌研究分野助教授、岐阜大学医学部附属病院助教授に。07年8月より愛知医科大学大学院医学研究科感染制御学主任教授、愛知医科大学病院感染制御部部長。2013年1月より愛知医科大学大学院医学研究科臨床感染症学主任教授、同大病院感染症科/感染制御部部長。2018年11月より日本性感染症学会理事長。

新型コロナウイルス感染症は、スタッフの過重労働、重症者用病床の逼迫など、医療機関の診療機能に大きな影響を及ぼしている。一方で、感染症の治療や予防に対する医療者の意識を大きく変えた、と三鴨廣繁氏は、コロナ禍の状況での前向きな副産物もあると話す。

唯一の対抗手段はワクチン

医療機関における院内感染対策は、医療安全の基本です。その重要性は新型コロナウイルスの感染拡大により、医療関係者だけでなく、広く国民が認識することになりました。当院では、院内感染対策のために、長年にわたり多くの人材や費用を投じて成果を挙げてきました。院内感染対策について語る前に、まず新型コロナウイルスの感染についてお話しします。

新型コロナウイルスの感染力、それによる感染症の死亡率はインフルエンザに比べて高く、一刻も早い終息が望まれます。死亡率はインフルエンザの0.1%以下に対し新型コロナウイルスはわが国では1.8%、世界では2.2%と桁違いに高く、感染力の指標として使用される基本再生産数(免疫のない集団に感染症を持ち込んだ1人の感染者が感染力を失うまでに何人に感染させるかを数値化したもの)もインフルエンザは1.3であるのに対し、新型コロナウイルスは1.4〜2.5とインフルエンザより高い数値をしめしています。

新型コロナウイルスの感染は、今なお拡大しており、収束にはまだ時間がかかると考えています。インフルエンザにはタミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタ、ゾフルーザという5つの抗インフルエンザ薬があります。感染症を発症した人が2日以内に服用あるいは注射や点滴をすればウイルスが体の中で増えなくなるので、発熱期間が短くなり、周囲に感染させるリスクも低くなります。しかし、新型コロナウイルスに特化した薬剤はまだ開発されておらず、唯一の対抗手段はワクチンで、接種する人を増やすことで社会全体での感染予防を進めるしかありません。

この新型コロナウイルスのワクチンは、これまでのワクチンに比べて有効性が高いことが示されています。例えばインフルエンザではワクチンの有効率は40〜60%ですが、新型コロナウイルスのワクチンは高いものだと95%と優秀です。今後、接種率が上がれば感染者数も重症者数も減っていくと期待されます。そして抗新型コロナウイルス薬が開発されれば、終息までの道のりを見通すことができるでしょう。

感染症対策にはチーム医療

次に、当院における院内感染対策についてお話しします。私は2007年8月に当院に赴任し、2013年1月に感染症科という診療科を新設していただきました。それまで当院では感染制御部が中心となって院内感染予防に取り組んでいました。私は感染予防には、「攻めの感染制御」と「守りの感染制御」があり、この両輪があってこそ患者さんと医療者の安全を守ることができると考え、理事会などの理解により、新しい体制を実現しました。

攻めの感染制御とは、患者さんの体から微生物を除去するなどして、感染症を治療することです。感染症科による診療が大きな柱ですが、抗菌薬適正使用支援チーム(Antimicrobial Stewardship Team:AST)による活動も重要です。ASTは、抗菌薬の不適切な使用や長期間の投与による耐性菌の発生・蔓延を予防するために、各診療科における患者さんへの抗菌薬の使用を適切に管理・支援するチームです。一方、守りの感染制御とは、感染制御チーム(Infection Control Team:ICT)が中心となって、微生物の院内感染を防止するための活動で、院内全体の感染動向の早期把握や感染対策を適切に管理しています。

ASTは、感染症専門医(Infection Control Doctor:ICD)が中心となって薬剤師、臨床検査技師、感染管理認定看護師(Infection Control Nurse:ICN)らがチームとなって取り組みます。ICTも同様のメンバーがチームで、多くはASTのメンバーでもあります。当院では、この2つのチームが密接に連携して、抗菌薬使用状況の把握と適性使用への啓発・介入、院内感染のサーベイランス、手指衛生や標準予防策の徹底、院内での感染症アウトブレイクの早期発見と対応、院内外からのコンサルテーション、感染対策マニュアルの整備などを行っています。

このようにASTとICTは院内感染対策の土台となっていますが、近年、重要性が指摘されているのが、2015年に世界保健機関(WHO)が提唱した、診断支援(Diagnostic Stewardship)です。これは、感染症の治療方針決定のために、より良い微生物診断を行うための協調的な指導と介入と定義されています。感染症の治療や抗菌薬の適正使用の基盤ともいえる活動で、臨床検査室を中心とした多職種の協同的作業になります。当院では、いち早く感染制御部に「感染検査室」を中央臨床検査部から独立して設置し、迅速かつ厳密な科学的根拠に基づいた感染症診療と感染制御に取り組んでいます。

院内も地域も常に連携することが重要

このように、感染症に対してはチーム医療が必須で、感染症を発症した患者さんを治療し、院内での感染症の発生・拡大を予防するために、組織としてもメンバー同士も常に情報を共有し、小回りのきく体制を組んでいます。

新型コロナウイルス感染症は、医療機関に様々な負担をかけていますが、その副産物といえるものもあります。一つは、感染の予防策が院内のスタッフに広く徹底されるようになったことです。それ以前は、手指衛生や個人防護具着用などの周知を繰り返してもなかなか徹底されませんでした。また、感染症を発症した入院患者さんについてのコンサルテーションを、ほぼ全ての診療科から積極的に依頼されることも増えました。これは感染症の早期発見・対応につながります。全診療科が一丸となって感染症対策に取り組むようになり、チーム医療はさらに強化されたと実感しています。

また、院内感染対策の地域連携でも、感染制御部が中心的役割を果たしています。ネットワークを構成する地元の10の病院と年に6回カンファレンスを実施するほか、連携病院の検体の検査を行い、診断に基づく治療方針のアドバイスなども行っています。

感染症の治療や院内感染対策を長期的に継続していくためには、人材育成も重要です。愛知医科大学には大学院に臨床感染症学が設置されており、私は指導者として、一人立ちできる医師を育成してきました。これまでに、ここから和歌山医科大学と高知大学に教授として2人が就任しています。愛知県の私立医科大学から国公立大学の教授を輩出したことは私の誇りであり、大学の誇りでもあると考えています。

愛知医科大学  感染症科 教授、感染制御部 部長 三鴨 廣繁

愛知医科大学
感染症科 教授、感染制御部 部長

三鴨 廣繁

1989年3月岐阜大学医学部卒業。同年5月同大学附属病院医員。岐阜県立下呂温泉病院、岐阜県厚生連中濃総合病院などを経て、94年9月岐阜大学医学部助手。97年10月同大講師。2003年4月~04年3月ハーバード大学留学。04年4月より岐阜大学生命科学総合研究支援センター嫌気性菌研究分野助教授、岐阜大学医学部附属病院助教授に。07年8月より愛知医科大学大学院医学研究科感染制御学主任教授、愛知医科大学病院感染制御部部長。2013年1月より愛知医科大学大学院医学研究科臨床感染症学主任教授、同大病院感染症科/感染制御部部長。2018年11月より日本性感染症学会理事長。

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