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地域医療構想に基づく病院再編と並行して

大規模な公立・公的病院の機能と役割の再考を

公益社団法人
全日本病院協会 会長

猪口雄二

1955年生まれ。1979年獨協医科大学卒業。1987年寿康会病院院長、2016年獨協医科大学特任教授、2017年6月より現職。地域包括ケア病棟協会、東京都病院協会、学校法人獨協学園、日本医療機能評価機構、日本医療教育財団の理事などを歴任。

地域医療構想の2025年までの実現を目指し、厚生労働省が調整会議の活性化に乗り出した。注目を集めるのは公立・公的病院の再編統合だが、全日本病院協会会長の猪口雄二氏に、今病院にどういった姿勢が求められているのか、お話を伺った。

協議の進まない調整会議に“石”

厚生労働省が、地域医療構想調整会議での公立・公的病院の再編統合の再検証を求める通知を、この1月に出しました。それに先立つ昨年9月、地域医療構想に関するワーキンググループが再編統合の必要性の再検証を求める424(今年1月の通知では約440)の公立・公的病院の名前を公表しました。これに対し、自治体、病院団体などから地域の個別事情を踏まえていないなどの反発が出たため、厚生労働省は全国7カ所で自治体や病院の関係者と意見交換会を開き、1月の通知にこぎ着けました。

「地域医療構想策定ガイドライン」は2015年3月に示されました。2025年までに地域の実情に合った地域医療構想の実現を目指し、各地域の医療需要などを調整会議で協議するためのガイドラインです。しかし、各地の協議は総じて進まず、厚生労働省は病院名公表という“石”を投げ込んだと、私は考えています。

団塊の世代が75歳以上となる2025年に向けて医療と介護の新たな体制づくりを目指していること、2025年の医療ニーズを推計して、それに対応する医療体制を作ること、そのために関係者が協議して医療機関の役割分担や連携の仕組みを構築することなど、メディアを通じて、地域医療構想がどのようなものかを改めて広く国民に周知するきっかけとなりました。さらに、具体的な病院名を挙げて再編統合の協議が進んでいないことを示し、再検証に向けた協議活性化の起爆剤にしようとしたのではないでしょうか。

今後、各地の協議がどう進むかは分かりません。ただ、ワーキンググループには全日本病院協会(以下、全日病)の織田正道副会長もメンバーとして加わり、民間病院からみた地域医療構想に対する意見を述べてきましたし、公立・公的病院と機能が競合する民間病院については必要なデータはすでに都道府県に示されていますので、協議が前進することを望んでいます。

大型公立・公的病院の役割のチェックが重要

気になるのは、規模の大小や経営母体の違いにかかわらず「公立・公的病院」とひと括りにして、議論されようとしていることです。まず、いくつかの公的病院は、その成り立ちからいって公立病院とは性格や役割が異なり、地域医療構想調整会議での再編統合の議論の対象となっていることに違和感を覚えます。

さらに公立病院の中でも、地方の公立病院の多くは中小規模の施設で、地域医療を支える不可欠の役割を担っていますから、むしろ存続できるよう守るべきでしょう。再編統合が必要なのは大規模な公立・公的病院です。地域中核都市には、国立、都道府県立、市町村立の病院が集中し、人口に対して明らかに病床が多い地域が多いのが実情です。当然、424病院の選定基準である「がん、心疾患、脳卒中、救急、小児、周産期、災害、へき地、研修・派遣機能」の9領域の機能が競合し、結果的に診療実績が蓄積されない病院は少なくありません。再編統合の協議では、大型公立・公的病院と中小公立・公的病院とを切り離して議論すべきだと思います。

また全国873の公立病院(都道府県・市町村立、地方独立行政法人立)には年間約8,000億円の公費(繰入金)が注ぎ込まれており、それに見合う基幹病院としての役割を果たしているのか、近隣の大型病院と機能分担をしているのかなどを改めて確認し、地域医療の調和と安定に貢献していくことが必要だと考えています。

民間病院は地域包括ケアの軸に

地域医療構想は二次医療圏という広い地域での医療供給体制を考える枠組みです。一方、全日本病院協会の会員の大半を占める中小の民間病院がフィールドとするのは、地域包括ケアシステムの構築への関わりです。地域包括ケアシステムは、人口2~3万人程度の日常生活圏域(中学校区など)を単位としています。市区町村、あるいはそれより狭い地域で、医療と介護サービスを一体的に提供するための、様々な関係者どうしのネットワーク化を目指すもので、中小の民間病院はそのフィールドで活躍すべきと考えています。

地域包括ケアシステムでは、それぞれの地域の実情に合った医療・介護・予防・住まい・生活支援が確保される体制を構築することが求められています。かかりつけ医と地域包括支援センター、ケアマネージャーなどとの連携が重要となります。

高齢者を地域で支えていくためには、訪問診療、訪問口腔ケア、訪問看護、訪問リハビリテーション、訪問薬剤指導などの在宅医療が不可欠です。われわれ民間病院はそこに関わり、必要に応じて入院にも対応し、また在宅医療に戻すというような、在宅療養の支援が重要となります。こうした地に足が付いた活動を継続していく病院を目指すべきでしょう。

地域包括ケアシステムの構築に当たっては、例えば大規模病院の地域包括ケア病棟が、同じ病院内の一般病棟からの受け入れ患者が多く、本来の地域包括ケア病棟の役割を果たしていないなど、整理、解決すべき課題は少なくありません。全日病では、こうした課題に取り組むため、加入する約2,550の病院が、住民・地域に密着した質の高い医療を常に提供し続けられるよう、様々なデータや事例を共有し、支援していきます。

公益社団法人 全日本病院協会 会長 猪口雄二

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全日本病院協会 会長

猪口雄二

1955年生まれ。1979年獨協医科大学卒業。1987年寿康会病院院長、2016年獨協医科大学特任教授、2017年6月より現職。地域包括ケア病棟協会、東京都病院協会、学校法人獨協学園、日本医療機能評価機構、日本医療教育財団の理事などを歴任。

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