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平均寿命の延びとともに、病気の治療だけでなく予防にも関心が高まっている。医療機関では、そうしたニーズを取り込むために、検査設備や人材を活用して「健診センター」を併設するところが増えてきた。一方で、病院と切り離し、交通の便のよい立地に独立した健診センターを作る動きも出ている。最新の設備と快適な空間そしてスタッフの気配りで受診者を迎える健診センターの取り組みを例に、今後の健診のあり方を考えてみる。
成人の健康診断には、労働安全衛生法で義務付けられた職場での健康診断、市町村が行なう特定健診、胃がんや乳がんなどのがん検診のほか、本人の意志で受ける「人間ドック」などがある。実施するのは委託を受けた病院や健診専門のセンターなどで、職場に検査機器を積んだバスを派遣することもある。
多くの健診では、受ける利用者も半ば義務感で受け、受診しない人も少なくない。受診率を上げるために、厚生労働省、企業や自治体は様々な手を打つが、それでも例えば特定健診の受診率は2017年度で53.1%にとどまっている。
一方で、健診事業は医療機関にとっては、それをきっかけに診療の対象となる人を見つけ出す窓口ともなる。検査結果に問題はなくとも、毎年受診してもらえば、一定の収入につながるだけに、いろいろな努力を重ねている。病院に「健診センター」を併設し、病院の患者と健診受診者の動線を交差させないところが増えているが、病院とは全く別の立地に健診センターを新設する動きもある。
2016年に医療法人社団緑成会横浜総合病院(横浜市青葉区)が、東急田園都市線・横浜市営地下鉄のあざみ野駅前に開設した「あざみ野健診クリニック」もその一つ。本院はあざみ野駅からバスで約10分かかるが、健診クリニックは駅前のスーパーが入る建物の4階という便利な立地にある。
クリニックに入ると一般企業の受付のようなカウンターがあり、その奥の待合室には1人掛けソファが背中合わせに30脚ほど並ぶ。各検査を行なう部屋はその待合室から直接入れるようになっており、利用者の動線が短く設計されている。利用者は、クリニックに着くと専用の検査着に着替えたあと、この待合室に座り、ゆったりと検査の順番を待つことになる。
同クリニックの主任看護師の秋山梢氏は「かつては本院に健診センターを併設していたが、検査によっては病院の設備を使うため、普段着の患者さんと検査着の利用者の方が交錯し、利用者には抵抗感があった。ようやく順番が回ってきても、緊急検査が必要な患者さんが入ると、利用者の方は再び待たされることもあった」と話す。健診センター長の原砂織氏は「利用者にとって検査はストレス。それを少しでも軽減するために、病院とは違う場所に健診専門施設を作り、雰囲気作りにも工夫を凝らした」という。
あざみ野健診クリニックの待合室。一人掛けソファが並び、落ち着きのある雰囲気。すべての検査室の入口が待合室に面している。
健診センターにとって最も大切なのは、安全かつ正確に検査を行なうこと。症状のない健康な人が、自分の健康の度合いを確認するために受診するだけに、あざみ野健診クリニックでは感染防止には特に力を入れている。
まず、医師、看護師、検査技師らスタッフにはスタンダードプリコーション(感染症の標準予防策)を徹底している。症状がないとはいえ、皮膚、粘膜、血液、体液、排泄物などはすべて感染性があるとして対応する。手で触れたら石けんで手を洗い、必要があれば手袋、フェイスシールド、マスク、エプロンなどを着ける。使用する医療材料のほとんどをディスポーザブルとし、子宮頸部の細胞診検査で使うクスコもディスポーザブルだ。便検査の検体はもちろん、尿検査の検体も自宅で採取してもらい、密封したものを検査当日に持ってくるようにしているため、感染源になる可能性のある尿がトイレから持ち出されることもない。消化管検査に用いる内視鏡については、日本消化器内視鏡学会のガイドラインに沿って洗浄・消毒を行っている。
安全を担保した上で、精度の高い検査を行なうために、内視鏡をはじめ、胸部X線検査装置、胃部X線検査装置、マンモグラフィーなどは最新機器をそろえている。特にマンモグラフィーは、近隣の医療機関や健診センターにはない3Dマンモグラフィー(別項記事参照)を導入した。
あざみ野健診クリニックでは、人間ドックのほか、横浜市民の健康診査・特定健診・がん検診、健康保険組合加入者の健診、就職、受験、海外渡航のための健康診断などを行っている。これらのメニューは他の健診センターと同じだが、人間ドックには多くのオプション検査がある。これは受診者のニーズ、つまり「健康への不安を軽減するために用意した」(原氏)メニューだという。内臓脂肪検査、骨密度検査、3Dマンモグラフィー、乳腺超音波検査、脳梗塞リスクマーカー検査、胃がんリスク検査などがある。
さらに、人間ドックとは別に専門ドックもある。脳ドック、心臓血管ドックのほか、この健診クリニックの特徴として「メモリークリニック」がある。これは、日本認知症学会専門医による診察、詳細な神経心理学的検査、頭部MRIを用いた画像診断(検査は横浜総合病院で実施)、生活習慣病をはじめとする危険因子の評価などから認知症発症リスクを判定し、予防へ向けての脳の危機管理をするというもの。高齢社会のニーズをとらえた取り組みといえよう。
こうした最新設備を活用しつつ、利用者の安心と満足度を高めるのは、スタッフの力によるところが大きい。秋山氏は「健康に不安があっても、このクリニックで検査したら元気が出てきた、と言われるように努力している」と話す。「検査は利用者の方にはストレスになる。少しでもリラックスして受けてほしい。清潔感のあるゆったりした空間作りはもちろん大切だが、鍵は私たちスタッフの接遇」だという。年に1度、スタッフ全員が接遇の研修を受けている。言葉遣い一つとっても、病院では「○○さん」と呼んでいたが、ここでは「○○さま」と呼ぶようにしている。「さま」と付けるだけで、それに続く言葉遣いが自然に丁寧になるという。言葉遣いだけでなく、挨拶、案内するときの手つき、扉の閉め方など、接遇の指導は細部にわたる。
利用者のストレスを軽減する上で、あまり待たせず、スムーズに検査を受けられるようにスケジュールの管理と案内をするコンシェルジュ(事務スタッフ)の役割は大きい。午前は人間ドック受診者が30〜40人、午後は横浜市の健診受診者が30〜40人訪れる。受付時に本人の意向などを聞き取り、例えば採血の苦手な人はそれを一番後回しにする、内視鏡のオプション検査を受ける人なら、その前に呼気検査を受けてもらうなど、受診者それぞれの検査の順番を組み立て、しかも全体でも待ち時間が少なくなるよう、日々調整しているという。
あざみ野健診クリニックには、保健師が4人勤務している。主に特定健診の結果を元に行なう特定保健指導を担当しているが、2年以上にわたる特定保健指導の経験から「一歩踏み込んだカウンセリングを実施する予定」(秋山氏)になっている。これは、指導の結果、「自分らしい健康習慣」を身に付けた利用者が2年間で60人以上いたことから、秋山氏らが企画したもので「セルフケアカウンセリング」と名付けている。
保健師や栄養士が一人ひとりについて日々の生活の振り返りを行い、無理なく行なえる食生活や運動の改善を一緒に考えていくというもので、3カ月コース、6カ月コースなどを用意している。
「健康な人がさらに元気になれるように寄り添うのが、健診に携わる私たちの役割」と秋山氏は話す。健診センターの利用者の満足度を高めるためには、立地、設備、そして人の育成が不可欠になっている。
プライバシーに配慮した診察室。医師とゆっくりコミュニケーションできるよう配慮した。
あざみ野健診クリニックに導入されている3Dマンモグラフィーは、従来のマンモグラフィーが上下、左右からの撮影だけだったのに対し、角度を変えて複数の方向から撮影し、そのデータを元に3次元の断層像を構成する。この機能はトモシンセシスと呼ばれ、断層を意味するトモグラフィー(tomography)と、合成を意味するシンセシス(synthesis)から作られた造語。従来の撮影が2Dマンモグラフィーというのに対し、トモシンセシスは3Dマンモグラフィと呼ばれる。
約10秒間の連続撮影で、乳房全体を1mm間隔の細かい画像で表すことができる。2Dマンモグラフィーでは、乳房のすべての情報を1枚の画像にするため、病変が正常乳腺と重なり、発見しにくい場合があった。トモシンセシスによって、マンモグラフィーが得意とする微細な石灰化の描出に加え、これまで乳腺に隠れて見つかりにくかった小さな乳がんを発見しやすくなるとされる。また、これまでしこりと鑑別できないために、精密検査が必要だった例を約40%減らせるといわれる。
最新の3Dマンモグラフィー。横浜市で導入している医療機関は少ないという。