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聖路加国際病院院長
福井次矢
1951年 高知県生まれ。1976年京都大学医学部卒業
1984年 ハーバード大学公衆衛生大学院卒業。1992年佐賀医科大学(現・佐賀大学医学部)付属病院総合診療部教授。1994年 京都大学医学部付属病院総合診療部教授。1999年 同大大学院医学研究科内科臨床疫学教授。2004年 聖路加国際病院副院長。2005年より現職(2016年より聖路加国際大学学長併任)
「病院ランキング」で上位に評価され、医学生の人気の高い研修先となっている聖路加国際病院では、そのブランド力を維持するため、不断の努力が続けられている。業務効率化のための機器管理システムの導入や、医療の質を追求するQI(Quality Indicator)※活動、国際水準並みの医療安全対策などである。院長の福井次矢氏にさまざまな取り組みについて伺った。
※QI:病院の機能や診療、サービスの”質”について、様々な指標を用いて客観的な数値で示したもの
聖路加国際病院は117年の歴史があり、入院病床520の大規模病院です。
院長としてFinancial HealthとPatient Healthに責任を持ち、日々病院の改革に取り組んでいます。
Financial Healthですが、病院は国が定めた診療報酬体系の中で収入を得て運営をします。このため、診療報酬項目の中で、施設基準や加算条件をクリアしているか毎年検討し、確実に診療報酬を得るよう努めています。
また、業務の効率化にも積極的に取り組んでいます。2015年から主要な17病棟で用いている700台以上の医療機器をリアルタイムに一元管理できる物品管理システムを導入しました。輸液ポンプなどの機器の保管状況を共有することで、看護師は在庫を気にすることなく、必要な時に保管場所から取り出すだけでよくなり、臨床工学室に取りに行ったり、他の病棟で機器を探したりすることをしなくてもよくなりました。また、機器の利用状況からリアルタイムでの必要数を把握でき、余剰在庫の削減が可能となり、購入金額の削減やメンテナンスの効率化にも寄与しています。
このほか、使用していない会議室の照明をこまめに消すようシステムを工夫するなどしてコスト削減につなげています。全ての診療部門のトップ(医師、看護師)と月1回会合をもち、前月までの入院患者数や外来患者数の推移、収益、インシデント・アクシデント、QI指標などについて話し合いを重ねています。
Patient Healthへの取り組みとしては、電子カルテのデータを活用したQI活動が中心となっています。QIとは各種の診療に関わる構造(施設、設備、医療機器)、プロセス(患者に提供する医療内容・過程)、アウトカム(医療を提供した結果)という3つの側面について、医療の質を評価し、数値化した指標です。当院では現在、100以上のQIを継続して測定しています。
例えば、病室に入る前後で手を消毒液で洗うという手指衛生は、基本かつ重要な医療関連感染予防策として位置付けられています。当院では手指衛生実施率の目標値を80%と設定し、2013年からは、病棟の天井に小型カメラを設置し、直接観察法によるモニタリングを実施しています。その結果、実施率は2011年に53%だったのが、2016年には74%までアップしました。
糖尿病治療についてはHbA1cが7.0%未満にコントロールされている患者さんの割合や処方薬の種類などのデータを出し、個別に改善を指導するなどの取り組みが功を奏しています。
毎月QI委員会を開催し、それぞれの指標の数値の動きと、改善のための取り組みについて話し合い、PDCAサイクルを回しています。QIを用いた医療の質改善への取り組みは厚労省の補助事業としても取り上げられ、現在では国内で約800の病院で実行されていると考えられています。
毎朝、患者サービス課や患者相談窓口の担当者、看護部、医事課スタッフなどの参加のもと、院長の司会で「ご意見対応ミーティング」を開いています。患者さんからの要望・クレームなどは翌日には情報の共有化を図っています。要望・クレームには迅速に対応し、速やかにフィードバックを行っています。そのかいもあり、最近の患者さんを対象としたアンケート調査では、52%が「大変満足」、45%が「満足」(「大変満足」「満足」合計97%)と回答しています。
当院は国際水準の医療の質・医療安全の証となるJCI(Joint Commision International)認証を2012年、2015年、2018年に取得しています。医療安全対策としては、ナースや医師からインシデント・アクシデントに関するレポートを提出してもらい、毎朝、医療安全管理室のスタッフ、担当副院長出席のもと、院長の司会のもと再発防止策を検討し、大きな事故に発展しないよう早め早めに対応しています。
最近、医師がCTなどの検査所見を見落としたり、医師間で情報共有ができていなかったためにがん患者が適切な治療を受けられず、手遅れになった事例が相次いで報告されています。当院では、そういったケースを防ぐために7年前から、悪性腫瘍との病理報告書が出された後、担当医がその病理報告書を受けて診療上の何らかのアクションを取ったかどうか、診療情報管理士が電子カルテをチェックするという体制を敷きました。CTなどの画像報告書についても同様なチェック体制を整えつつあります。
また当院では早くからグローバル化を見据え、外国籍の患者さんを対象とした診療体制を整えてきました。現在、当院の入院、外来とも患者さんの5%は外国籍の人が占めています。東京オリンピック・パラリンピックを控え、当院の役割はますます大きくなると思われ、世界の中での聖路加国際病院の役割・あり方を今後とも考えていきたいと思っています。