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来春をめどに厚労省が再製造に関する洗浄の指針を策定
さきごろ厚労省は、使用済みの単回使用医療機器(single-use device:SUD)を再製造するための洗浄に関する指針を、2019年春をめどに策定すると発表した。同省では2017年7月に省令改正し、SUDを適切に再製造すれば再使用を認める制度を導入したが、その適切さの判断で要となるのが洗浄と滅菌。厚労省の今回の発表には、この洗浄と滅菌の目安を具体的に示すことで、多くの事業者が参入しやすい環境を整え、SUDの再製造に向けた動きを活発化させる狙いがあるものと思われる。
使用済みSUDの再使用について、これまでわが国では原則として禁止されてきた。2014年6月の「SUDの取り扱い等の再周知について」と題した医政局通知でも、「SUDについては、特段の合理的理由がない限り、これを使用しない」と記載されている。しかし、実際にはSUDを再使用している医療機関は多く、製品の劣化や不完全な洗浄・滅菌などが、医療事故や院内感染の発生につながったケースは少なくなかった。
SUDの再使用がなくならない理由のひとつとして、SUDが高価なことがあげられる。SUDの中にはレアメタル(希少金属)を含むものなどもあり、1本で数十万円もするものが珍しくない。そのため、「SUDを1回の使用で使い捨てにするのはもったいない」という医療関係者からの声が途絶えることはなかった。
もし十分な安全性が担保されたうえでSUDの再使用が可能になれば、それは医療コストの削減につながる。しかし、安全性の判断を個々の医療機関に任せていたのでは、とうてい十分な安全性の担保はできない。では、どうするか。それには国がSUDの再使用について指針を作成し、制度化することが必要であろう。そうした考えから行われたのが、2017年7月の省令改正であった。
医療機関がSUDの安全性を自己判断し、再使用するという問題は海外でも頻繁に起きていた。そこで、米国では2000年に米国食品医薬品局(FDA)によって、SUDの再使用についての安全基準が打ち出され、制度化が行われた。使用済みSUDは回収、分解、洗浄、部品交換、再組立て、滅菌などの処理を行った後に、オリジナル品(新品)とは別の再製造SUDとしてFDAによって新たに承認される。再製造SUDは使用済みSUDを回収した医療機関にだけ戻されるのではなく、まったく別の医療機関にも販売される。これはオープン・モデルの制度といえるだろう。先行する米国では、再製造SUDはオリジナル品の50〜70%程度の価格帯で流通し、医療費抑制の重要な選択肢となっているという。
ドイツでは2002年から、再製造SUDの制度が導入されている。ロベルトコッホ研究所と医薬品医療機器連邦研究所の委員会による「病院衛生と感染防止に係わる勧告」(KRINKO勧告)を満たす条件のもと、再製造品はオリジナル品と同等として取り扱われている。個々の医療機関は再製造業者と契約し、再製造されたSUDは元の医療機関に納入される。医療機器としての認証(CEマーク)は不要である(ただし、特定の病院ではなく、市場に広く流通させる場合は医療機器としての認証が必要)。これはクローズド・モデルの制度といえる。単回使用品、複数回使用品、材料クラス分類に関わらず再製造の対象としている。なお、KRINKO勧告は病院と再製造企業の両方に出されているため、病院でもこの勧告を満たせばSUDの再製造が行えるが、この勧告は極めて厳格なため、病院は再製造企業を利用することを選択している。現在、大学病院の約90%がSUD再製造品を使っているといわれる。
英国では再製造品はCEマークが必要であり、特定の病院と再製造業者の間のみで流通させなければならない。すなわち、米モデルと独モデルのハイブリッド型といえる。
フランスを除く欧州連合(EU)各国でも、2017年に統一規制が整備され、再製造SUDの動きが活発化している。
フランスでは、かつてSUD再使用によりクロイツフェルト・ヤコブ病が発生した影響からか、現在のところは再製造SUDを積極的に推進する動きは見られていない。
2017年7月の省令改正で示された、わが国の再製造SUD制度のポイントは次の3点。①再製造SUDを製造販売するためには、医薬品医療機器法に基づく製造販売業許可を必要とする②再製造SUDはオリジナル品とは別の品目として、製造販売承認を必要とする③再製造SUDに関する医薬品医療機器法上の責任(安全対策や回収など)は、再製造を行った製造販売業者が担う
再製造SUD制度の実施・運用に伴っては、再製造SUDの品質や製造管理等に関する基準が新設され、「国内の医療機関で適切に管理されたものであること」「汚染、病原体が製造工程において除去・不活化されていること」「オリジナル品の構造、原材料などの変更や安全性情報をモニタリングすること」などが決められた。また、再製造SUDのトレーサビリティ(追跡可能性)確保のため、再製造SUDにシリアル番号を付し、使用済みSUDを収集した医療機関から、製造工程、流通までの情報管理を行うことも定められた(図)。
再製造SUDの対象製品としては、すでに欧米で対象となっている、神経生理電極カテーテル(EPカテーテル)、トロッカー、腹腔鏡用機器の血管シーリング装置などが想定される。脳、脊髄、硬膜、脳神経節などに接触したものは、感染リスクが大きいことから対象外となっている。
厚生労働省が使い捨て医療機器のリサイクル制度を新設したのを受け、今年1月、新たな産業創出を目指す9社(アイテック、オリンパス、サクラグローバルホールディングス、サクラ精機、ジョンソン・エンド・ジョンソン、第一医科、日本ストライカー、ホギメディカル、メディアスソリューション)が単回医療機器再製造推進協議会を発足した。医療の安全性を確保しながら、資源の有効活用や医療費削減を目指すとしている。
図 単回使用医療機器(Single-use device:SUD)の再製造について
出典:厚生労働省ホームページ
再製造SUDの導入により、まず、医療機関の自己判断によるSUD再使用による感染事故は大きく減少することが期待される。再製造業者に問題があれば、そこを介して事故が発生するというリスクも皆無ではないが、先行している米国では現在まで、再製造SUDによる事故は報告されていない。
また、医療コストの削減にもつながると思われる。業界関係者によれば、わが国のSUDの市場規模は約1.5兆円で、そのうち10%程度が再製造に適している。また、再製造SUDの価格はオリジナル品の50~70%になると予想されるという。したがって再製造SUDの導入により、750~450億円の医療コストが削減されると推測される。
2017年7月の省令改正後、各方面で再製造SUDを推進する動きが活発化している。
2018年1月には再製造SUD、およびその関連事業への参入を目指す企業などを中心として任意団体「単回医療機器再製造推進協議会」が結成された。同協議会では、再製造SUDの普及に向けて、関係省庁との意見調節や提言、技術的課題の検討などに積極的に取り組んでいきたいとしている。
省令改正では、再製造SUDの洗浄・滅菌については、既存の複数回使用可能な医療機器の洗浄・滅菌に関するガイドライン等に準拠して行うことを記載している。しかし、SUDと複数回使用可能な医療機器ではそもそも感染リスクが異なり、さらにSUDは製品ごとによっても感染リスクが異なる。これを既存の複数回使用可能な医療機器と同様の基準で一律に洗浄・滅菌することには疑問がある。そこで、厚労省では新たにSUDを再製造する際の洗浄に関する指針を、2019年春をめどに策定することを明らかにした。指針の詳細については未だ不明だが、いずれにせよ、これによりSUDの感染リスクの程度、製品の材質や劣化度などに応じた、よりきめ細かい洗浄・滅菌が促されていくものと考えられる。
再製造SUDの普及を推進するための要は洗浄・滅菌であり、その指針が明確でないことは事業者が参入をためらう障壁になりかねない。厚労省の今回の発表には、この懸念を取り除くことで、より多くの事業者に参入を呼び掛けていこうという意図があるものと考えられる。再製造SUDへの動きはますます活発化することになるのか、成り行きが注目される。