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公開日:2024.11.07
救急医療体制は、急病や怪我に対して24時間365日体制で迅速かつ適切な医療を提供する、社会にとって不可欠なシステムです。その目的は、生命の危機にある患者の救命、重症化の防止、そして苦痛の軽減にあります。このシリーズでは、救急医療体制の現状と課題について4回にわたって詳しく解説していきます。第1回では、救急医療機関の分類とその役割に焦点を当てて紹介します。
救急医療は、交通事故による外傷や心肺停止、アナフィラキシーなど、予期せず発生した緊急性の高い傷病に対応する医療全般を指します。この重要な役割を担うのが救急指定病院です。
救急指定病院とは、都道府県知事が指定した医療機関で、以下の要件を満たしています。
①救急医療に精通した医師による常時診療
②X線装置、心電計、輸血・輸液設備など、必要な医療機器の完備
③救急車による搬送が容易な立地と、傷病者の受け入れに適した施設構造
④救急患者専用または優先的に使用できる病床の確保(各自治体によって要件が若干異なる場合があります)
これらの要件により、救急指定病院は24時間体制で緊急患者を受け入れ、迅速かつ適切な治療を提供できる体制を整えています。
救急医療体制は、患者の症状の重症度や緊急度に応じて適切な医療を提供するため、一次、二次、三次の3段階に分類されています。この分類システムにより、限られた医療資源を効率的に活用し、患者に最適な治療を提供することが可能となっています。
一次救急医療機関は、軽症患者に対応する医療機関です。主に日常的な診療所や地域の医師会が運営する休日夜間急患センター、救急(休日)歯科診療室、地域の在宅当番医制に参加する診療所が該当し、自力で通院できて、軽度の発熱、腹痛、けがなど、入院を必要としない比較的軽症の患者を対象としています。
これらの施設の主な役割は、地域住民の身近な医療ニーズに応えることと、重症度の高い患者を適切に選別し、より高度な医療機関へ紹介することです。多くの場合、これらの施設は診療時間外や休日に対応しており、地域の医療体制の基盤として重要な役割を果たしています。
二次救急医療機関は、一次救急では対応できない重症患者を受け入れる医療機関です。自力で受診できず救急車で直接搬送されてきた患者を受け入れます。同一地域内の救急指定病院と共同で、病院群輪番制や協力病院当番制をとり、入院や手術を必要とする患者に対応します。
これらの施設では、心筋梗塞、脳卒中、重度の外傷など、より高度な医療処置を要する症状に対応することが可能です。二次救急医療機関は、地域の医療体制において中核的な役割を果たしており、24時間体制で救急患者を受け入れる体制を整えています。二次救急医療機関は、都道府県知事が告示・指定します。二次救急医療機関の存在により、重症患者が迅速に適切な治療を受けられるようになり、地域の医療の質の向上に大きく貢献しています。
三次救急医療機関は、最も高度な救急医療を提供する施設です。具体的には、救命救急センターや高度救命救急センターがこれに該当します。これらの施設は、二次救急医療機関でも対応が困難な重篤な患者、例えば、多発外傷、重症熱傷、急性中毒など、生命の危機に直面している患者を24時間体制で受け入れます。
特に高度救命救急センターは、厚生労働大臣が告示・指定するもので、通常の救命救急センターの機能に加え、広範囲熱傷、指肢切断、急性中毒、重症外傷など、特に高度な救急医療を要する患者にも対応可能な設備と専門医、専門の看護師や医療スタッフを備えています。
三次救急医療機関の役割は、最先端の医療技術と設備を活用して、最も重篤な患者の救命に当たることです。同時に、これらの施設は地域の救急医療の最後の砦として機能し、他の医療機関では対応できない患者を受け入れる重要な役割を担っています。
また、三次救急医療機関は救急医療に関する研究や教育の中心としても機能し、救急医療の質の向上に貢献しています。最新の医療技術や治療法の開発、救急医療従事者の育成など、救急医療の発展に欠かせない役割を果たしています。
日本の救急医療体制は、一次から三次までの医療機関がそれぞれの役割を果たし、緊密に連携することで効率的かつ効果的に機能しています。各段階の医療機関が患者の状態に応じて適切な医療を提供することで、救命率の向上と患者の予後改善に大きく寄与しています。この3段階のシステムにより、軽症から重症まで、あらゆる緊急医療ニーズに対応できる体制が整えられています。同時に、医療資源の効率的な活用も実現しており、限られた人材や設備を最大限に活用しながら、質の高い救急医療サービスを提供することが可能となっています。
このように、日本の救急医療体制は24時間365日、国民の急病やケガに対応するために整備されていますが、その一方でいくつかの課題も抱えています。
救急医療を担う医師や看護師は不足しており、特に地方では夜間や休日の体制維持が困難です。過重労働が続くと医療の質が低下するリスクがあるため、人材の育成と負担軽減が求められます。また、都市部に比べて地方では救急医療機関が少なく、患者の迅速な搬送が難しい場合があります。ドクターヘリや広域搬送体制の強化も必要です。また、軽症患者による救急車の利用増加も重症患者の対応を遅らせる原因のひとつとなっており、適切な利用を促すための一般市民への啓発が重要となります。病床不足や医療機関同士の連携不足により、救急患者がたらい回しにされるケースもあり、地域間の医療連携の強化も欠かせません。高齢化による救急搬送件数の増加で医療費が増えていることもあり、限られた予算の中で効率的な医療提供を目指す工夫が求められています。
これらの課題に対処するためには、政府や地方自治体、医療機関が連携し、救急医療体制の充実と改善に努めることが必要です。また、一般市民に対して救急医療に関する正しい知識を普及させることも、重要な一歩となります。今後の日本の救急医療体制の発展には、これらの課題を乗り越え、持続可能で質の高い医療提供を実現するための継続的な努力が求められます。
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