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公開日:2021.09.28
新型コロナウイルス感染症の切り札として期待されるワクチンですが、感染力の強い変異ウイルスであるデルタ株の流行を背景に、2回のワクチン接種を終えて、免疫を獲得した後に新型コロナに感染する「ブレイクスルー感染」の報告例が増えています。ワクチン接種完了後に感染する原因や対策についてまとめました。
感染症は2つのタイプに大別できます。1つは麻疹(はしか)や水痘(みずぼうそう)など一度感染すると2度がかりしないタイプ。もう1つが新型コロナやインフルエンザなどのように、何回も繰り返しかかるタイプです。前者のタイプはウイルスが鼻や喉の粘膜から侵入した後、近くのリンパ節で増殖してから血液中に入り全身にウイルスが広がり発症します。このため、感染から発症まで比較的長い潜伏期があります。潜伏期間が長ければ、抗体量が減少してもウイルスの侵入による刺激で抗体の増産体制に移行し、ウイルスが血中に入る頃には十分な抗体量が産生され発病を阻止できます。
一方、後者のタイプは鼻や喉などの粘膜に侵入したウイルスがすぐにそれらの部位で増殖します。ウイルスに反応する免疫細胞が抗体を産生しますが、ウイルスがそれを上回る速度で増殖してしまうと発症予防は難しくなります。ただし、時間経過とともに十分な抗体量が産生されるため、肺炎の発症を予防し、重症化が抑えられます。
ブレイクスルー感染のリスクは、コロナワクチンの2回目の接種完了から時間が経つほど高まるものと考えられています。例えば、モデルナ製のワクチンの2回接種を終えてから半年が経つと感染を防ぐ中和抗体は4分の1以下まで減少するという研究結果が出されています。
ブレイクスルー感染増加の背景にはデルタ株の流行があります。デルタ株は感染力が強く、増殖するスピードも速いウイルスとされています。そして、従来株よりもワクチン効果を低下させることがわかっています。ファイザー製とモデルナ製ワクチンの感染や発症の予防効果は従来型では9割以上ありましたが、イスラエルではデルタ株に置き替わってからは6割強まで低下しています。ブレークスルー感染者の中和抗体は非感染者と比べて低かったとする報告が出されており、中和抗体の低下が感染リスクと関係していることが考えられています。
大阪府の調査では、今年3〜8月の新規感染者8万5,325人のうち、ブレイクスルー感染者は0.4%(317人)で、60歳以上が半数を占めていました。死者や重症者は皆無でした。一方、米国では、ロサンゼルス郡で今年5〜7月に確認された新型コロナ患者約4万3,000人の約25%がブレイクスルー感染だったことが、米疾病対策センター(CDC)のデータからわかっています。ただし、入院したのは3.2%、ICUでの治療は0.05%で、重症化は抑えられていました。一方、米国の各州からの任意の報告データでは、今年9月13日時点でブレイクスルー感染による入院または死亡の報告があったのは1万5,790人で、入院者のうち約70%は65歳以上、死亡者では87%を65歳以上が占めていました。
こうしたなか、ワクチン接種から時間が経過して効果が落ちても、体に抗体が残っている間に3回目の追加接種をすれば、効果が再び高まる「ブースター効果」に期待が集まっています。ファイザー製ワクチンの3回目接種により、2回だけと比較してデルタ株に対する中和抗体価は若年層で5倍以上、高齢者層で11倍以上の上昇とされます。モデルナ製ワクチンの追加接種の2週間後の中和抗体価は2回目接種の6〜8か月後までと比較して約42倍増加したとされます。
イスラエル保健省の研究によれば、60歳以上の人へのファイザー製ワクチンの追加接種により、2回接種と比較して感染リスクが11分の1以下、重症化リスクが10分の1以下になることが認められています。こうした研究結果などを踏まえて、イスラエル、英国、フランス、ドイツなどではすでに追加で3回目の接種を実施しているほか、米国も近く追加接種を始める予定といいます。英国では医療・介護従事者や介護施設の入居者などハイリスク者のほか、50歳以上の全国民も対象とし、全2回の接種完了から半年を過ぎた時点で3回目を認めています。日本もこのほど、3回目の接種を行う方針を固めました。2回目までと同じワクチンを使用することが基本で、2回目接種から8か月以上あける方向とされます。対象者は今後検討するとしていますが、2月に先行接種が始まった医療従事者には、早ければ12月中にも接種が始まる見通しです。
追加接種後の副反応について海外では、ファイザー製のワクチンでは「2回目の接種に比べて頻度が同程度か低い」、モデルナ製では「副反応の半数以上は軽度か中等度」、アストラゼネカ製では「1回目接種後よりも少なかった」などとされています。
一方、世界保健機構(WHO)の専門家らは、新型コロナワクチンの3回目の接種について、重症化を防ぐ効果が大幅に低下している証拠はないとし、現状の規定回数で十分だとする意見論文を今月、ランセットに発表しています。
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