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日本心臓血圧研究振興会
附属 榊原記念病院 院長
磯部光章
1952年東京都生まれ。1978年東京大学医学部卒業。三井記念病院、東京大学医学部第三内科を経て、1987年ハーバード大学マサチューセッツ総合病院心臓内科。1993年信州大学医学部第一内科助教授、1999年東京医科歯科大学医学部第三内科助教授、2001年同大学大学院医歯学総合研究科循環制御内科学教授、2017年より現職。東京医科歯科大学名誉教授。日本学術会議会員。日本心不全学会理事長、日本循環器学会理事などを歴任。厚生労働省など政府審議会の委員を多数務めている。
榊原記念病院は、高度急性期の循環器専門病院として、他施設より重症心疾患患者を受け入れる一方、地域の中核的な「循環器病センター」としての役割を担っている。心臓手術数は、成人、小児含めて昨年で1,400件近くを数え、国内屈指と言える。“心不全パンデミック”を見据えて今秋より、在宅診療支援に乗り出す。一昨年から病院長を務める磯部光章氏に、今後の目指す方向性について伺った。
当院は、日本の心臓手術の先駆者である榊原仟先生が循環器専門病院として1977年、新宿に設立しました。2003年に現在の府中市に新築・移転し、循環器医療と救急医療を軸とした多摩地区の地域支援型専門病院(320床)としてスタートし、胎児・新生児から高齢者まで心臓、血管疾患を中心とした最先端の高度急性期の医療を提供しています。
循環器内科医、心臓血管外科医(成人、小児)など医師約90人、ナース約330人などで対応しており、成人の心臓手術数は年間800〜900件、冠動脈インターベンションの治療数は年間1,000件ほどです。カテーテルを用いて人工弁を心臓に装着する経カテーテル大動脈弁植込み術(TAVI:Transcatheter Aortic Valve Implantation)は220件を上回ります。小児の心臓血管手術も年間400件を超え、いずれも国内上位の実績といえます。
最近の傾向としては高齢者の心疾患の増加がみられ、冠動脈疾患と弁膜症が合併しているケースが目立ちます。こうした場合は、外科と内科が協力し合い、ハイブリッド手術室でバイパス手術とTAVIを並行して実施することもあります。外科手術は、傷が小さく、体に負担をかけない低侵襲心臓手術(MICS:Minimally Invasive Cardiac Surgery)を行います。超高齢者には、リードレスペースメーカーや心臓・血管系内にリードを留置しない皮下植込み型除細動器など新しい治療も実施しています。
また、2014年には、心疾患があっても安心して出産できる分娩施設を目指して産婦人科を開設しました。幼少期に先天性心疾患の手術を受けて成人し、結婚し、出産を希望する女性は珍しくなくなりました。児の心臓病が疑われる場合でも、胎児期から出生後までシームレスな治療が可能となっています。産婦人科医と小児循環器医、小児心臓外科医、看護師、助産師などがチームとなってきめ細やかな診療を進めています。
2010年に東京都CCUネットワークに急性大動脈スーパーネットワークが構築され、二次救急の当院も緊急大動脈重点病院として積極的に患者さんを受け入れています。急性大動脈解離は、死亡率が高く、迅速な手術治療を要しますが、循環動態が悪い場合は三次救急施設への搬送が必要との救急隊のルールが存在するため、他院から当院への搬送途中で亡くなるケースが散見されます。フレキシブルな対応が可能となる改善が望まれるところです。
このほか、当院では、心臓の組織から取り出した幹細胞を心不全の治療に使う再生医療の臨床研究も進めています。1例目の患者さんは心機能の改善が確認されており、今2例目の治療を終え、経過を観察しているところです。
当院は近隣のご開業の先生方と密接な病診連携を行なっていますが、団塊の世代が続々と後期高齢者となる今後は、入退院を繰り返しながらターミナル期に移行する心不全が急増し、地域医療の対応が難しくなります。いわゆる“心不全パンデミック”を見据えて、そうした社会的ニーズに応えるため、病院の機能の一端として在宅診療支援事業に乗り出すことにしました。循環器領域に強い訪問診療のプロフェッショナルグループとタイアップし、今年の秋頃からスタートします。事務所は病院内に置き、在宅医と院内医が患者さんの診療情報を共有し、有機的に対応できる新しいモデルを構築したいと考えています。
昨年12月に成立した「脳卒中・循環器病対策基本法」は、脳卒中や心臓病に対する医療体制、社会体制を総合的に整備することが目的となっていますが、入退院を繰り返しつつ悪化し、長期入院の末に亡くなるという心不全の疾患モデルを変えることも重要な目標です。これまでは、病院診療と在宅診療が別々に行われているケースが多かったのですが、我々の有機的な取り組みが再入院しない地域づくりに貢献できればと思っています。循環器領域の地域連携の1つのモデルケースとして、全国に広めたい思いです。
医師の働き方改革が論議されていますが、医師の働き過ぎは事実であり、医師と他職種間での業務の分担や移管が必要です。その一環として、診療看護師(Nurse Practitioner)を増やす予定で、将来的には、外科の術後ケアや救急のトリアージなどに従事してもらうことで、仕事の分担を図っていきたい考えています。
指定難病で膠原病の一種である高安動脈炎という疾患がありますが、大動脈のみに症状が表れると誤解されがちで、見逃されているケースが少なくありません。私は、長年、数多くの高安動脈炎患者さんの診療に携わってきました。早期治療につなげるために、的確な診断が求められ、さらなる啓発活動に力を入れていきたいと考えています。